市街化調整区域は、豊かな自然が残るなど魅力的に見える一方で、さまざまな制限があるため、不動産購入には注意が必要です。一見メリットが多そうですが、市街化調整区域には住宅地としての制約や、不動産投資におけるリスクも存在します。
購入を検討する際は、メリット・デメリットを十分に理解し、ご自身の目的やライフスタイルに合った選択をすることが重要です。
市街化調整区域とは?
市街化調整区域は、都市計画法に基づいて市街化が制限されるエリアのことを指します。特に東京や大阪などの大都市圏では市街化区域が主流ですが、それ以外の地域では市街化調整区域が多く存在します。
この区域では、都市計画法第34条により、特定の例外を除いて宅地造成やその他の開発行為が基本的に禁止されています。これにより、無秩序な都市拡大を防ぎ、計画的な土地利用が求められています。
第三十四条 前条の規定にかかわらず、市街化調整区域に係る開発行為(主として第二種特定工作物の建設の用に供する目的で行う開発行為を除く。)については、当該申請に係る開発行為及びその申請の手続が同条に定める要件に該当するほか、当該申請に係る開発行為が次の各号のいずれかに該当すると認める場合でなければ、都道府県知事は、開発許可をしてはならない。
都市計画法(昭和四十三年法律第百号)
例えばさいたま市では、法第34条各号の規定に基づいて、開発行為に関する基準を定めており、その詳細を市のホームページで確認することができます。
市街化区域との違い
市街化区域と市街化調整区域は言葉が似ているため、その違いがわからない人も多いかもしれません。
市街化区域は、住宅の建設や事業活動が行われるエリアです。この区域では、道路や下水道などのインフラが優先的に整備され、公園や公共施設も充実しています。つまり、私たちが日常生活を送るためのエリアと言えます。
一方、市街化調整区域は、農地や緑地などの自然環境の保全が優先される区域です。このエリアでは、新たに建物を建てることが難しく、農業用建物など一部の例外を除き、原則として開発行為が制限されています。ただし、都市計画法に基づく特例もあるため、全く建築が不可能というわけではありません。
市街化調整区域を調べるには
地方自治体のWebサイトで調べる
多くの自治体では、都市計画に関する情報をWebサイトで公開しています。「都市計画 ○○市」のように検索すると、地図情報システムなどがヒットするはずです。これらのシステムでは、地図上に用途地域が色分けされて表示されるため、市街化区域と市街化調整区域を簡単に区別できます。
例えば、色が付いているエリアは市街化区域、色が付いていないエリアは市街化調整区域であることが多いです。具体的な表示方法は自治体によって異なるため、Webサイト内の案内を確認しながら調べてみましょう。
地方自治体への問い合わせ
市街化調整区域かどうかの判断に迷う場合は、地方自治体に直接問い合わせる方法も有効です。
問い合わせ先
各地方自治体の「都市計画課」が窓口となります。都市計画課は、街づくりのルールを定めた都市計画法に基づき、地域の将来像を描いた「都市計画マスタープラン」に沿って、街づくりを進める部署です。
問い合わせ方法
電話やメールで問い合わせることが可能です。Webサイトで調べるよりも手間はかかりますが、担当者から直接詳しい情報を得られるため、確実な方法と言えるでしょう。
今後の不動産活用にも役立つ
将来的にアパート・マンション経営や土地活用を考えている方は、都市計画課との接点を持つことで、地域の開発計画や規制など、不動産に関する有益な情報を得られる可能性があります。
不動産物件広告で確認する方法
市街化調整区域か否かを判断する1つの方法は、不動産物件広告の概要欄をチェックすることです。
用途地域を確認する
市街化区域内の物件であれば、概要欄に「第一種低層住居専用地域」や「商業地域」といった具体的な用途地域が記載されています。
用途地域とは、その土地に建てられる建物の種類や用途を定めたもので、主に「住居系」「商業系」「工業系」の3つに分類されます。
市街化調整区域には用途地域が定められていないため、物件概要欄にこれらの記載があれば、市街化区域内の物件であると判断できます。
市街化調整区域の記載
物件によっては、概要欄に「市街化調整区域」と明記されている場合もあります。SUUMOなどの一部の不動産ポータルサイトでは、「都市計画区域外」と表記されることもあります。
用途地域の略称に注意
不動産広告では、「1種低層」のように用途地域が省略されている場合があります。正式名称と照らし合わせて確認しましょう。
専門サイトを活用する
市街化調整区域を調べるには、専門のWebサイトを利用する方法も便利です。例えば、「Map Expert用途地域マップ」のようなサイトでは、全国の住所をピンポイントで検索し、市街化区域か市街化調整区域かを簡単に確認できます。
Map Expert用途地域マップ
このサイトでは、地図上で市街化調整区域が赤色で表示されるため、視覚的に分かりやすいのが特徴です。
使い方は簡単で、物件の住所を検索欄に入力するだけです。すると、その周辺の地図が表示され、該当する場所が市街化区域なのか市街化調整区域なのかがすぐに分かります。
他の活用方法
市街化調整区域だけでなく、市街化区域内の用途地域も調べられるため、土地の利用規制や建物の制限など、より詳細な情報を知りたい場合にも役立ちます。
市街化調整区域のメリットとは
市街化調整区域にもいくつかメリットがありますので、まずはメリットをご紹介します。
都市計画税がかからない
市街化調整区域は、市街化を抑制するための地域であるため、都市計画税が課税されません。
都市計画税とは都市計画事業や土地区画事業の費用に充てるために市町村が固定資産税と合わせて土地や家屋の所有者に課す税金で、固定資産税に上乗せして徴収されています。固定資産税の標準税率は1.4%、都市計画税の制限税率は0.3%となっていて、これは、固定資産税と都市計画税の両方が課税される市街化区域と比較すると、大きなメリットと言えるでしょう。
自然豊かな住環境
市街化調整区域は、都市計画法によって開発が厳しく制限されています。これは、都市の無秩序な拡大を防ぎ、自然環境を守ることが目的です。
そのため、市街化調整区域には緑が多く残り、自然豊かな住環境が保たれています。都会の喧騒を離れ、静かで落ち着いた暮らしを求める人にとっては、大きな魅力と言えるでしょう。
市街化区域と比較して安く土地を購入できる
市街化調整区域は、建築に関する制限があるため、一般的に市街化区域と比べて資産価値が低くなります。そのため、同じエリア内で比較すると、市街化調整区域の物件は相場よりも安く購入できるという大きなメリットがあります。
この価格の安さは、住宅購入を考えている方はもちろん、不動産投資を考えている方にとっても魅力的です。
住宅購入の場合、土地の購入費用を抑えることで、建物の建築費用や内装費用に予算を回すことができます。
不動産投資の場合、初期投資を抑えることで、家賃収入による早期回収が可能になるなど、資金計画の選択肢が広がります。
市街化調整区域のデメリット
建築の制約
市街化調整区域では、建築できる建物に制限があります。これは、市街化を抑制し、自然環境を守るための措置です。
しかし、この制限はデメリットにもなり得ます。例えば、都市計画法第34条の厳しい条件をクリアしなければ、住宅の新築や建て替えができません。
そのため、土地を購入した後で建築許可が下りないという事態も起こり得ます。市街化調整区域での建築は、慎重な計画と確認が必要不可欠です。
既存建物を先に解体した場合、再建築できない
すでに建物が建っていたからといって、その建物を取り壊し新たに建物を建てることが認められないケースが多くあります。
これは都市計画の見直しにより、建築確認申請が新たに必要となったケースに該当します。解体についても事前に申請が必要となる場合があります。
生活インフラや交通の不便さ
市街化調整区域は、市街化を抑制する目的で指定されているため、一般的に交通の便が良いとは言えません。
駅からの距離
最寄り駅から離れていることが多く、通勤・通学には不便を感じることがあります。バスを利用する場合、時間だけでなく費用もかかるため、注意が必要です。
単身者向け物件のハンデ
特に、単身者をターゲットにしたアパートやワンルームマンションは、通勤・通学の不便さが大きなハンデとなります。
ファミリー層への影響
一方、ファミリー層は住環境を重視する傾向があるため、市街化調整区域の物件を選ぶ可能性も考えられます。しかし、人口減少社会においては世帯数の減少が見込まれるため、ファミリー向け物件への投資はリスクを伴う可能性があります。
インフラ整備の遅れ
さらに、建物が少ない地域では、電気・ガス・水道などの基本的なインフラが十分に整備されていないケースもあります。生活の利便性を重視する場合は、事前にインフラ状況を確認することが重要です。
例えば、多くの市街化調整区域では都市ガスの利用ができず、プロパンガスの使用が余儀なくされ光熱費が高くなってしまう可能性があります。
また下水道ではなく浄化水槽が使用されている場合も考えられます。この場合、下水道に直接汚水を流せないため、浄化水槽の設置や清掃点検のコストが余計に発生します。
資産価値の上昇が期待しにくい
不動産投資において、資産価値の上昇は大きな魅力の一つです。周辺地域の開発計画や再開発事業は、不動産価格を大きく押し上げる可能性があります。
しかし、市街化調整区域では、開発が厳しく制限されているため、そのような価格上昇の恩恵を受けにくいのが現状です。
市街化区域であれば、将来的な開発によって不動産価値が上がる可能性がありますが、市街化調整区域では、その可能性は極めて低いと言えます。
そのため、不動産投資の観点からは、資産価値の上昇を期待しにくいという点がデメリットとして挙げられます。
売却の難しさ
市街化調整区域の物件は、建築制限など様々な規制があるため、買い手を見つけにくい傾向があります。
不動産投資におけるリスク
これは、不動産投資において大きなデメリットとなります。なぜなら、売却したいタイミングで買い手が見つからない可能性があるからです。
農地転用の問題
例えば、購入した土地の地目が農地の場合、農業を営む人にしか売却できません。買い手が住宅地として利用したい場合は、農地から宅地への転用が必要になりますが、これは非常に手間がかかる手続きです。
さらに、農業振興地域内の農地は、農業者以外への売却が原則として禁止されています。
流動性の低さ
このように、市街化調整区域の物件は、売却相手が限定されるため、流動性が低いと言えます。不動産投資においては、売却のしやすさも重要な要素であるため、注意が必要です。
ローンの審査が厳しくなる可能性
市街化調整区域の物件は、売却しにくい傾向があるため、金融機関から見て担保価値が低いと判断されることがあります。
ローンの審査対象外となることも
そのため、住宅ローンや不動産投資ローンなどの融資を受ける際に、審査の対象外となったり、審査基準が厳しくなったりする可能性があります。
事前の確認が重要
市街化調整区域の物件購入を検討する際は、事前に複数の金融機関に相談し、ローンの可否や条件を確認しておくことが重要です。
ビジネス利用には不向き
市街化調整区域は、商業施設や offices の建設を目的とした地域ではないため、ビジネス利用には適していません。
集客の難しさ
市街化調整区域は、人口密度が低く、交通アクセスも不便な場合が多いため、店舗を出店しても集客が難しいという問題があります。
駐車場確保の問題
幹線道路沿いに店舗を構える場合でも、広い駐車場を確保する必要があるため、初期投資額が大きくなる可能性があります。
建築許可の不確実性
さらに、市街化調整区域では、そもそも店舗の建築許可が下りるかどうかが不透明です。
自然災害のリスク
市街化調整区域は、自然豊かな環境が魅力ですが、その反面、自然災害のリスクが高いという側面もあります。
ハザードマップで確認
台風や豪雨などによる被害を受けやすい地域かどうかは、国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト」で確認できます。
注意が必要な地域
特に、河川に近い低地や、過去に土砂災害が発生した地域などは、注意が必要です。近年、日本各地で自然災害が頻発していることを考えると、事前にリスクを把握しておくことは非常に重要です。
事前の情報収集を
市街化調整区域の物件を検討する際は、ハザードマップを活用し、自然災害のリスクを十分に考慮した上で判断するようにしましょう。
市街化調整区域は避けるべきか
住む場所としての市街化調整区域
市街化調整区域は、そもそも住宅地として開発されたエリアではないため、生活の利便性や資産価値の面で、市街化区域に劣る部分があります。
市街化区域を優先的に検討
マイホームや土地を探す際は、まず市街化区域内で希望に合う物件を探してみることがおすすめです。
市街化区域は、生活に必要な施設や交通機関が充実していることが多く、快適な暮らしを送る上で有利です。また、将来的に売却する場合でも、資産価値が維持されやすい傾向があります。
利便性と資産価値を考慮
特に、公共交通機関の利便性や、将来的な資産価値は、長期的な生活設計において重要な要素です。
市街化調整区域の物件を選ぶ場合は、これらの要素を十分に考慮し、総合的に判断することが大切です。
どうしても市街化調整区域を選ぶ場合
どうしても市街化調整区域にある物件が欲しい場合は、生活の利便性や資産価値に加えて、建築制限や自然災害リスクなど、市街化調整区域特有のデメリットについても十分に理解した上で、慎重に検討を進めるようにしましょう。
投資対象としての市街化調整区域
一方、不動産投資の観点からは、市街化調整区域は注意が必要です。建築制限や売却の難しさ、資産価値の上昇が見込みにくい点など、多くのデメリットが存在します。
専門家のアドバイスを
市街化調整区域の物件購入を検討する際は、これらのメリット・デメリットを十分に理解し、慎重に判断することが重要です。
もし判断に迷う場合は、土地活用や不動産投資に詳しい専門家に相談することをおすすめします。専門家のアドバイスを受けることで、より適切な判断を下せるでしょう
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