不動産取引において、売主が買主に対して引渡し猶予を求めるケースが存在します。通常、不動産売買では物件の決済と引渡しが同日に行われることが一般的です。しかし、引渡し猶予は、決済完了後、物件の引渡しを数日後まで延期してもらう特約の一形態です。この記事では、引渡し猶予が適用される場面、その手続きの流れ、そして関連するリスクについて詳しく説明します。引渡し猶予は、売主が新しい住居への移転を準備するための時間を確保する目的で利用されることが多く、その間、売主と買主の間で合意された特約に基づき進行されます。
引渡し猶予が利用される具体的な状況とは?
引渡し猶予とは、売却予定の不動産がある売主が、新しい住居への移転を計画している場合に、その新居との契約が完了するまでの期間、売却済みの物件の引渡しを遅らせることができる特約です。これは主に、売主が新居の購入や契約を完了させるために必要な時間を確保することを目的としています。
この特約を利用することで、売主は物件の売却後、新しい住居への契約が完了するまでの間、数日から数週間程度、以前の住まいを引き続き使用することが可能になります。重要な点は、代金の支払いや所有権の移転登記は、引渡し猶予の合意にもかかわらず、計画通りに進行するということです。
引渡し猶予の適用は、売主が新しい住居への移転を前提としています。このプロセスには、既存の物件を売却し、その資金を新居購入に充てるなど、売主の生活の転換点における複数のステップが含まれます。
引渡し猶予をつけた買い替えの流れ
引渡し猶予を付けて買い替えをする場合には、下記のような流れになります。
1.引渡し猶予特約を付けて売却活動を行う
2.売買契約の締結をして決済、売主は残代金の返済をする
3.売主は売却代金で購入予定物件の決済を行う
4.購入物件への引越しと売却物件を買主へ引渡し
引渡し特約を付けた売買活動
売主は引渡し猶予特約を明示した上での売却活動を行います。これは売却後も売主がそのまま売却不動産にしばらく住み続ける特約のため、売主有利な条件であるため、事前に売却前に買主に条件を伝える必要があります。
売買契約を締結して、残代金の決済をする
残代金決済を行うことで、売却不動産の所有権が買主に移ります。所有権が買主に移った状況で、売主は無料で所有権のない不動産に住まわせてもらっている状況になります。
売主は売却代金で購入予定物件の決済を行う
購入予定物件をあらかじめ手付けを払うなど契約しておき、残代金を支払って決済をします。この時点で引越し先である購入物件の所有権が、引渡し特約を付けた売主に移ります。
購入物件への引越しと売却物件を買主へ引渡し
購入物件へ引越しを行い、売却物件を明け渡します。
引渡し猶予の仕組みや効果
引渡し猶予とは、あくまでも「引越しするまでの数日間を無料で泊めさせてください」というお願いになります。この場合、賃料を発生させると賃貸借契約となることから、一般的には無償で貸し出す、「使用貸借」という契約形態をとることとなります。これは、賃貸借契約と異なり、借主の立場が非常に弱いことから、いつでも貸主は賃借人を追い出すことが可能な状況となっています。立場上非常に弱い立場であるということを理解しておきしょう。
引渡し猶予の一般的な設定期間
引渡し猶予は、売主が新居への引っ越しをスムーズに行うために、一時的に現在の物件に留まることを許可される特約です。この期間は賃貸借契約とは異なり、基本的に無償での滞在が原則とされています。引渡し猶予の目的は、売主が新居への移転を円滑に行うための短期間の猶予を確保することにあり、その期間は通常、数日間に限定されます。
通例、引渡し猶予の期間は3日から10日程度とされ、この短期間が売主にとっての調整期間となります。この期間設定は、引渡し猶予が売主の一時的な都合によるものであることを考慮し、長期間にわたる居住を想定していないためです。概ね、引渡し猶予期間は一週間前後が適切とされ、これは不動産取引における一般的な慣習として受け入れられています。
買主側のリスク
引渡し猶予特約を設けた不動産取引では、売主が約束された期間を超えて物件に居座るリスクが存在します。このリスクは、買主にとって大きな懸念事項となり得ます。売主が移転後も物件を不当に占有し続けるケースでは、売主は本来、占有権を持たない無権限者となります。
「引渡し猶予特約」は、売主に一定期間物件を使用する許可を与えるものの、この期間が過ぎれば、売主は物件を明け渡す義務があります。しかし、売主がこの契約を無視して居座る事態になれば、買主は予定していた物件の使用が不可能になり、最悪の場合、売主を法的に退去させるための訴訟に発展する可能性もあります。
このような状況を防ぐためには、引渡し猶予特約を結ぶ際には、特約の条件を明確にし、可能な限り売主の居座りリスクを軽減するための措置を講じることが重要です。これには、引渡し日を明確に定めることや、違反した場合のペナルティを設定することが含まれます。
引渡し猶予の代替手段
引渡し特約は、買主にとって決済後も即座に不動産を利用できないなど、売主有利な契約となっていました。このほかに、買主に負担を強いることなく、住み替えを行える方法を2つ説明します。
住み替えローンを利用する
住み替えローンは、売却予定の現在の自宅にかかる住宅ローンと、新しく購入する住宅の購入資金を一本化し、借り換えることができる金融商品です。このローンを利用することで、現在の住宅の売却が完了する前でも、新しい住宅の購入に必要な資金を事前に確保することが可能になります。
通常、住宅ローンには抵当権が設定されており、売却前の不動産に残った残債に対する抵当権を清算しなければ、新たな不動産の購入に向けたローンを組むことが困難です。住み替えローンは、このような問題を解決し、スムーズな住み替えを支援するために設計されています。売却と購入のタイミングを調整する際の一つの解決策として、引渡し猶予の必要性を低減させることも期待できます。
住み替えローンのメリット
1.残債があっても新居を購入できる
住み替えローンを活用することにより、売却予定の現在の住宅に関する残債がある状態でも、新たな住宅の購入が可能になります。このローンは、家の売却代金と自己資金の総額が現在の住宅ローンの残債をカバーできない場合にも有効となります。
2.住み替えにかかる支出を抑えられる、引渡し特約が不要となる
住み替えローンを利用することにより、住み替え全体にかかる費用を効果的に抑制することが可能です。通常、住宅の売却後に新居への移転を行う場合、売却と購入の間に仮住まいを確保し、そこへ移動する必要があります。また引渡し特約の設定を避けることができます。
3.二重での住宅ローンを組まなくても良い
住み替えローンを利用することで、既存の住宅ローンの残債と新居の購入資金の両方をカバーするための支払いを一本化できます。これは、新居購入のために新たなローンを組み、既存のローンとは別に返済する必要がある「ダブルローン」とは異なります。住み替えローンによって、既存の住宅ローンを新居購入の資金と一緒に組み直し、月々の返済負担を一つにまとめることができるため、経済的な負担が軽減されます。その結果、ダブルローンに比べて、返済の管理が容易になり、費用や手間が削減されるメリットがあります。
住み替えローンのデメリット
1.審査が厳しい
住み替えローンを利用する際には、通常の住宅ローンに比べて融資額が高額になる可能性があるため、金融機関による融資条件がより厳格になる傾向があります。このため、申込者の年収や信用情報、過去の返済履歴が審査の重要な判断基準となります。特に、クレジットカードのキャッシング利用履歴なども借入れとして考慮され、審査の結果に影響を及ぼすことがあります。そのため、住み替えローンの申し込み前には、不必要なキャッシングの使用を避け、信用情報を可能な限り良好に保つことが重要です。
2.物件の売却と購入の決済日を同日にするなど高度なスケジュール調整が必要となる
現在所有している住宅の売却と新しい住宅の購入に関する決済日と引渡し日を同一日に調整する必要があります。これは、住み替えローンの性質上、売却される住宅の抵当権抹消と新居購入時の抵当権設定を一連の流れとして処理する必要があるためです。同時決済の要件は、取引の計画性と精密さを要求し、売買双方の協力とタイミングの合致が不可欠となります。これにより、取引の柔軟性が制限される場合があり、売却と購入のプロセスをスムーズに進めるためには、事前の準備と調整が重要となります。
セールアンドリースバックを利用する
セールアンドリースバックとは、家をリースバック会社に売却し、その後リースバック会社より売却した物件を賃貸契約により貸してもらうことで、自分の住む家を現金化したのちそのまま住み続ける方法を言います。
セールアンドリースバックと引渡し猶予は、根本的に異なる概念です。引渡し猶予は短期間、買主の好意に基づく居住延長であり、「お願い」によるものです。一方、セールアンドリースバックは正式な「賃貸借契約」に基づき、元売主は無権限者ではなく正式な借主となります。
セールアンドリースバックでは、通常、2年間などの定期賃貸契約が結ばれ、この期間は一般的な賃貸契約と同様に扱われます。この契約は、借主(元売主)がいつ退去したいかに応じて解除できることが多いです。
引渡し猶予は、売却後に新居への移転が確定している場合にのみ利用されることが一般的であり、新居が未定の場合は買主からの承諾を得にくいです。そのため、新居が未定の場合、一時的な仮住まいへの移転が必要になることが多いです。
しかし、セールアンドリースバックを活用すれば、元の自宅を仮住まいとして利用でき、新居が決まり次第、移転することができます。これにより、引っ越しの回数を削減できるため、特に新居購入のタイミングが数か月先になる場合など、セールアンドリースバックの利用が適している場合があります。
まとめ
当社は、不動産取引、特に住み替えや売買における引渡し猶予やそれに伴う特約のリスクなど、複雑な問題に対応するために専門知識を持ったスタッフを配置しています。住み替え時の資金計画の立案や不動産買取に関して特に強みを持っており、お客様の状況に応じた最適なソリューションを提供することが可能です。住み替えや不動産取引に関する疑問や懸念がある場合は、どうぞお気軽にご相談ください。
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