遺族への損害賠償請求、事故物件の責任範囲を知ろう

事故物件

この記事では、事故物件の相続者が直面する可能性のある損害賠償請求に関する問題について説明します。具体的には、責任の範囲や平均額、事故物件と見なされる条件、および請求可能な損害賠償の種類について解説します。また、物件の租借契約を引き継ぐ場合や複数の相続者がいる場合、相続権を放棄することの影響、相続財産の清算に対処する方法についても詳しく説明します。さらに、事故物件を売却する際の留意点や告知義務、そして損害賠償の観点から買取専門業者を利用する方法も紹介します。

告知義務のある事故物件とはどのようなものか?

事故物件とは、居住者の死亡や火災、水害といった自然災害が発生した物件を指し、これらは通常、瑕疵物件と分類され、不動産の価値が顕著に減少します。特に、自殺や殺人などの死亡事故が生じた場合の不動産は、心理的瑕疵物件として扱われます。

不動産業者には、不動産の売買や仲介を行う際に購入者や借主に重要事項を告知する義務があります。これは宅地建物取引業法(宅建業法)第47条および第35条によって定められています。告知義務の適用期間は法律で具体的に規定されていないものの、一般的には事故から3年間とされています。

さらに、告知義務は3年が経過した後も継続する場合があり、購入希望者や現在の入居者から事故の有無に関する問い合わせがあった際には、その事実を正確に伝える責任があります。このようにして、適切な情報の提供を通じて、遺族への損害賠償請求や事故物件に関連する責任範囲の理解を深めることが重要です。

告知義務の対象となる事故の程度

告知義務の対象となる事故は下記のものが該当します。

  • 自殺
  • 他殺
  • 孤独死
  • 病死
  • 老衰

これらのうち、殺人による他殺は最も不動産の価値の下落につながりやすく、ついで自殺、孤独死(死後相当期間が経過し腐敗が進んだもの)、病死・老衰と続きます。

事故が発生したことによる損失や損害

事故が発生すると不動産の賃貸、売買に際して告知義務が発生します。このことが不動産の価格を大きく下げる要因となります。事故物件の所有が被る損失や損害としては下記があります。

  1. 家賃を減額しなければいけなるなるため、家賃減額の損失
  2. 不動産を復旧するための原状回復の費用
  3. 売買にあたっては大幅に値下げせざるを得ず、通常得られるはずの対価が得られない損失

家賃減額の損失

事故物件と認識されると、新規の入居者を見つけることは一般に難しくなります。このような状況下では、家賃を引き下げることが、入居者を確保するための一般的な対応策となります。家賃の下落率は、物件の元の賃料設定や、事故の性質(例えば死因)といった事故の詳細によって左右されます。こうして発生する、本来得られるはずだった家賃収入の減少は、事故による直接的な損失として認識されます。

さらに、殺人事件など事件性の高い事案では、警察の現場検証が完了するまで物件を新たに賃貸市場に出すことができません。この期間中に本来得られたはずの家賃収入が得られないことによる損失も、逸失利益として計算されるべきです。

このように、事故物件となった場合の家賃減額による損失は、直接的な家賃収入の減少および賃貸募集ができない期間の逸失利益を含みます。

原状回復の費用

人の死亡を伴う事故物件では、自殺や殺人などの痕跡を除去し、次の入居者を迎え入れる準備のために特殊清掃が不可欠です。この特殊清掃の費用は、物件の広さ、事故の重大性、死亡事故の発生から発見されるまでの時間経過など多様な要因によって異なります。さらに、殺人など事件性があるケースでは、警察の捜査期間が長引くことがあり、その間は物件の原状回復や賃貸募集が行えない状況になります。これら特殊清掃や原状回復作業に関連する費用は、事故発生による経済的損失の一部として考慮されます。

売却価格の減額

心理的瑕疵があると認識された事故物件は、不動産市場での買い手を見つけるのが難しくなり、これは売却価格の低下に直接影響します。さらに、宅地建物取引業法(宅建業法)第47条及び第35条に基づき、不動産取引における告知義務は、事故物件情報が一般に容易にアクセス可能な情報源(例えば大島てるなどのサイト)で公開されている場合でも、事実上半永久的に続くものと見なされます。これは、取引に際して知り得た情報を全て買主に伝える義務があるためです。

この告知義務の長期性は、売却プロセスを複雑にする可能性があり、特定の買主のみが対象となる可能性が高まります。これは、売却価格の低下と、買い手を見つけるための追加労力が必要であることを意味します。したがって、これらの要素は、事故によって生じる損失の一部と見なすことができます。

死亡自由と賃料、売買価格との下落率の比較

事故物件の賃料や売買価格の下落率は、物件の立地、築年数、心理的瑕疵の影響度など、複数の要素に基づいて決定されます。通常、以下のような特性を持つ物件では価値の下落が顕著になります。

  • 駅から徒歩10分を超える立地や市街地からのアクセスが車で10分以上要する物件
  • 築年数が10年を超えるか、明らかな汚損が存在する物件

これらの条件が合致する場合、価値は20%から30%程度低下することが一般的です。

対照的に、以下の条件を満たす物件では、価値の低下が比較的抑えられます。

  • 駅から徒歩10分以内、または市街地から車で10分以内の好立地
  • 築10年以内で汚損がない清潔な物件

このような好条件の物件では、販売価格が相対的に高く保たれ、10%程度の価値下落で済むと見られています。

瑕疵の種類に関しては、殺人などの重大な事件が発生した物件は特に価値が下落しやすく、市場価格の10%から50%まで落ち込むこともあります。

物件価値の下落率については、一概には言えず、物件の具体的な条件や死因が病死であるなどの事情によっても変動します。

家賃の下落について注意すべきこと

事故物件における家賃の下落は、賃借人を見つける上で必ずしも困難を意味するものではありません。たとえば、報道された凄惨な事件があった物件であっても、家賃を大幅に減額することで賃貸募集を成功させる例は存在します。家賃を大きく下げることで、潜在的な賃借人の関心を引きつけることは可能です。

ただし、家賃の大幅な削減が必ずしも望ましい結果をもたらすとは限りません。家賃を下げることで、入居者の質が落ちるリスクがあります。低家賃によって惹きつけられた入居者の中には、家賃の滞納が発生するケースや、審査基準を緩和した結果、問題を起こす可能性のある入居者が含まれる可能性があります。これらの状況は、不動産の価値をさらに損なうリスクを伴います。

したがって、家賃の設定に際しては、単に賃借人を確保することだけでなく、入居者の質と不動産価値の長期的な維持にも配慮する必要があります。

どのような事故は遺族に損害賠償ができるのか?

不動産のオーナーは、事故により家賃の下落や原状回復の損失、売買価格の下落という損失を受けるため、その損失を損害賠償として死亡者の遺族に請求できる場合があります。損賠賠償を請求できるか否かについては、入居者の死因に故意や過失が認められるか否かが重要になります。

入居者が自殺した場合

入居者が自殺した場合には、遺族に損害賠償を請求することが可能です。入居者の自殺に故意が認められるためです。家賃の保証のみでなく、原状回復の支出額についても同様に損害賠償を請求することが可能となります。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について

入居者が他殺により死亡した場合

入居者が他殺により死亡した場合、被害者の遺族に対して損害賠償を請求することは、法的および倫理的観点から困難が伴います。通常、被害者側に過失がないとみなされるため、その遺族に財務的な責任を求めることは不適切であると考えられます。

一方で不動産所有者にとって殺人事件による経済的損失が最も大きく、この点は所有者が救われない結果となってしまいます。

入居者が孤独死した場合

入居者が孤独死する場合、病死や自然死、衰弱死などは一般的に本人の過失とは見なされず、これらの理由で発生した事故に関して遺族に損害賠償を請求することは法的に困難です。国土交通省が発行する「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」によれば、この種の死亡事例は心理的瑕疵には該当せず、一般に告知義務の対象外とされています。しかし、物件の将来の購入者や入居者が、近隣住民からの情報提供を通じて孤独死の事実やそれに伴うリフォームが必要だったことを知った場合、不動産会社に対して告知義務違反として損害賠償を請求する可能性が出てきます。

ガイドラインでは心理的瑕疵として扱われない場合でも、死亡に関する告知は非常にデリケートな問題です。死亡時の具体的な状況を踏まえ、告知すべきか否かの判断は慎重に行われる必要があります。孤独死に起因する損害賠償請求は一般的に困難ですが、死後の部屋の原状回復費用や腐敗によるリフォーム費用については、遺族からの費用負担を求めることが可能です。これらの費用は、物件の所有者や管理会社が直面する具体的な経済的損失を補填するためのものであり、遺族に対する損害賠償請求の一環として検討されることがあります。

賃貸の場合、賃貸借契約は遺族が承継する

賃貸物件において賃借人が亡くなった際、賃貸借契約は自動的に解除されるわけではありません。亡くなった賃借人の権利および財産は、法的にその相続人である遺族によって承継されます。これには、賃貸物件の使用権も含まれるため、不動産オーナーや管理会社は、遺族の承諾なしに遺品を処分したり、物件を他の目的で利用することはできません。これは、不動産の有効活用においてオーナーが直面する可能性のある課題の一つです。

この状況は、不動産オーナーにとって、物件を迅速に再賃貸市場に戻すための障害となることがあります。したがって、遺族との間で相続の手続きや遺品の取り扱いに関する合意に達することが、このような場合の重要なステップとなります。

相続人が複数いる場合には、一人に損害賠償を請求できる

相続人が複数いる場合に損害賠償金の支払いが必要となった際、この金額は「不可分債務」として扱われます。不可分債務とは、個々に分割して支払うことができない債務のことを指し、その性質上、全体として一括で支払う必要があります。たとえば、賃貸物件に関して相続人全員に共同の責任がある場合、損害賠償金を個別ではなく全体として対応しなければなりません。

相続人同士で賠償金の負担を話し合い、分担して出し合うこと自体は可能ですが、貸主に対しての最終的な支払いは、全額を一括で行う必要があります。これは、相続人の一人一人が損害賠償の責任を負うと同時に、相続人全体としても連帯して責任を負うことを意味します。

相続人全員が相続放棄をしたら損害賠償を請求できない

事故物件に関する損害賠償請求は、原則として、事故発生時に入居者の過失が原因であった場合、不動産の所有者は相続人に対して損害賠償を請求することが可能です。しかし、相続人が故人の財産すべての承継を放棄する「相続放棄」を選択した場合、この放棄が法的に受理されれば、相続人に対する賠償請求はできなくなります。

相続放棄は、相続が開始したことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に対して申し立てを行うことで行われます。この手続きを通じて、相続人は故人からの財産だけでなく、負債やその他の法的責任からも免除されます。したがって、相続放棄を行った相続人に対しては、故人が賃貸借契約の当事者であった場合でも、損害賠償の請求は不可能となります

相続人がいない場合や、相続放棄された場合の訴えはできるか?

相続人がいない場合や全ての相続人が相続を放棄した状況では、事故物件に関する損害賠償請求のために、相続財産清算人の選任が可能となります。相続財産清算人は、故人の財産を管理・処分する役割を担い、この人物の選出は家庭裁判所によって行われます。このプロセスには、必要な書類の提出と費用の発生が伴いますが、相続人の不在や放棄により生じた法的空白を埋める重要な手段となります。

相続財産清算人が選任された後は、実際の相続人が存在するかどうかを確認するため、公告を行う必要があります。この公告は、相続人の捜索に最低6ヶ月を要し、さらに債権者や受遺者の存在を確認するためにも2ヶ月以上の公告が必要とされます。これにより、潜在的な相続人や関係者がいる場合には、それらの人々に対して適切に通知することが可能となります。

請求可能な損害賠償の金額は?

事故を被ったことにより損害賠償が可能なケースと不可能なケースが見てきました。次に請求可能な損害賠償の金額を解説します。

損害賠償として請求できる損害賠償の性質は、逸失利益と原状回復の2種類になります。

逸失利益

家賃減額により本来得られるはずの利益を得られない損失部分が該当します。これには次の入居者が見つかるまでの空室期間の賃料と、家賃減額による損失が該当します。

原状回復

部屋の状態を事件前の水準にまで回復させるための費用を言います。主に入居者の過失により生じた損傷を言います。経年劣化により生じた消耗などは含まれません。

具体的な逸失利益の例

一般的には家賃減額分の2年から3年分を損害賠償として請求するケースが多いようです。これは告知義務の期間が3年ほどとされていることから設定されています。過去の判例から、1年目は家賃の全額、2年目は家賃の半分を支払うことが命じられた判例があります。

ワンルーム物件で発生した自殺について、相続人に対し「1年間は賃料全額、以降2年分は賃料半額相当である合計約132万円を支払う」という旨を命じました。

東京地裁が平成19年8月10日に下した判例

原状回復の具体例

具体的な原状回復の費用の目安としては、特殊清掃の業者への支払い費用が参考となります。これは間取りや広さ、清掃の作業内容により異なります。

間取り費用目安
1R・1K4万〜30万円
1DK5万〜15万円
1LDK8万〜20万円
2DK9万〜30万円
2LDK12万〜35万円
3DK15万〜50万円
3LDK18万〜55万円
4LDK以上20万〜60万円
作業内容費用目安
オゾン脱臭3万円〜5万円
害虫駆除1万円〜
床清掃3万円〜
畳撤去3,000〜9,000円/枚
消臭・除菌1万円〜2万円
汚物撤去2万円〜

未払家賃も遺族に請求可能

死亡後も賃貸借契約が当然に解除されるわけではないため、賃貸借契約は継続しています。賃貸借契約が解除されるまでの賃料については、遺族に請求することが可能です。

残置物の処分を行いたい場合には入居時に特約を設定しておく必要がある

賃貸物件における入居者の逝去に際し、部屋に残された家電や私用品などの残置物は、法的に相続人の所有となります(相続放棄が行われない限り)。そのため、貸主は相続人の許可なくこれらの残置物を処分することはできません。

もし相続人が残置物の撤去を行わない場合でも、貸主による無断での撤去行為は法的に禁止されています。撤去を望む場合、貸主は法的手続きを経て建物の明渡し判決を得る必要があり、その後で残置物撤去の強制執行を裁判所に申し立てるべきです。

ただし、賃貸契約の締結時に相続人の同意を得たり、契約に残置物の取扱いに関する特約が設けられている場合は、貸主が残置物を処分することが可能です。特に、「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を用いることで、事前に受任者を指定し、入居者の死亡時に残置物の処理をスムーズに進行させることができます。これにより、事故物件となった際の残置物処分に関する問題を事前に防ぐことが可能となります。

売却を検討するならば専門業者への売却がおすすめ

事故物件は、家賃の減額やそれに伴う入居者質の低下など、予想外の問題に直面することがあり、予定していた利回りの確保が困難になることがあります。特に、事故が発生した物件を相続する場合、市場での売買が難しくなる可能性があります。これは、物件が心理的瑕疵を持つことによる告知義務があるためです。事故発生後にそのままの状態で賃貸募集や売買を試みるのは非常に難しく、多くの場合リフォームやリノベーションが必要となります。このように、心理的瑕疵物件となった不動産を売却する際には、専門の買取業者に依頼することが、スムーズで心理的負担が少ない方法として推奨されます。

当社は事故物件の買取を迅速に行っております。社内には設計士も在籍しており、リノベーションを通じた迅速な売却も可能です。事故物件をお持ちの不動産オーナー様は、ぜひ一度当社までご相談ください。

泉俊佑

Sity LLC 代表の泉俊佑です。同社は空き家や事故物件などの売れにくい不動産の買取再販を行う不動産業者です。同社が運営しているサービスサイトである「瑕疵プロパティ買取ドットコム(瑕疵プロ)」の運営者も務めています。宅地建物取引士。

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