事故物件の告知義務はいつまで?法的な規定と責任について解説

事故物件

事故物件には告知義務が存在します。その期間がいつまで続くのか、疑問に思われる方も多くいらっしゃるようです。この記事では、事故物件の告知義務の期間、その決定の要素や条件、法的規定や責任について解説をします。また、心理的瑕疵の定義や、事故物件を取り壊した再建築後の告知義務、などを判例をもとに考察します。

事故物件の告知義務:期間とその決定要素

まず告知義務とは何か?その内容と必要性

告知事項とは、不動産の取引において、購入者や賃借人の意思決定に重要な影響を与える事項で、契約に先立って伝えるべき事実を言います。

これは具体的には、下記の4種類に大別できます。

  • 自殺や殺人があったなどの心理的瑕疵
  • 不動産内部の設備が壊れているなどの物理的瑕疵
  • 近隣に火葬場などの忌避施設がある環境瑕疵
  • 戸建の建物などで、接道義務を果たしておらず、再建築などができない法律的瑕疵

これらの総称して広義の事故物件と呼んだります。本記事で取り扱う、心理的瑕疵のある物件を狭義の事故物件と呼んでいます。

告知義務とは?

告知事項について、売主と不動産取引に関与した不動産業者は、買主もしくは賃借人に適切に伝える義務があります。

売主はこれを怠った場合や事実を隠したまま不動産を売却した場合、契約不適合責任により、代金の値引き、契約の解除、損害賠償などを請求される可能性があります。また、不動産取引に関与した不動産取引業者は、重要事項説明の不足(宅地建物取引業法35条)と不実の事実を伝えたことによる業法違反(宅地建物業法47条)により、買主より損害賠償請求を受ける可能性があります。

心理的瑕疵について何が告知事項に該当するか?その範囲

心理的瑕疵について、宅地建物取引業者は買主・借主に告知する義務がありますが、告知すべきか否かの要否や告知の方法については、これまで宅地建物取引業者によって対応が分かれていました。このためのちに事実を知った買主が売主に損賠賠償を請求したり、貸主が借主の孤独死などを恐れて高齢者への賃貸を拒む事態が多発しました。こうした事態を受けて、国土交通庁より2020年に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が定められました。

これにより下記の点が明確に定められました。

  • 自然死については心理的瑕疵に該当しないこと
  • 宅地建物取引業者の調査義務の範囲は「人の死に関する事案が生じたことを疑わせる特段の事情がないのであれば、自発的に調査する義務はない」

告知義務のない自然死とは下記のものを言います。

1.老衰、病死(自然死)
2.日常生活での不慮の事故死
(自宅の階段からの転落死、入浴中の溺死、転倒事故、食事中の誤嚥など日常生活の中で生じた事故)
3.隣接住戸や通常使用しない集合住宅の共用部での死亡
(自殺・他殺を含む

宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン

一方で告知義務のある人の死亡については下記のものが該当します。

1.自殺、他殺、火災による死亡
2.特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合
3.買主・借主から問われた場合
4.社会的な影響の大きさから買主・借主が把握しておくべき特段の事情があると宅建業者が判断した場合

宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン

またマンションの共用部において行った事故については、その共用部を日常的に使う人に対して告知義務が発生します。つまり仮に2階の共用部で発生した事故について、1階の専有部を購入する買主に対しては告知義務がないことになります。

告知義務は何年間必要か

告知義務の期間についてもガイダンスで定められています。ガイダンスによれば、賃貸の場合には、自殺、他殺、火災による死亡から概ね3年経過したものについては告知義務がないものとされています。ただしこの場合であっても、売買取引の場合には告知義務は免除されてはいません。また借主から問い合わせのあった際は、事実を述べなければいけません。ニュースなどで大々的に報道された事件などについても告知義務が免除されてはいません。

告知義務違反による過去の裁判例

8年9か月前に他殺が疑われる事件が発生したマンションの売買 平成21年11月26日 大阪地裁

概要
売買したマンション内において、8年9か月前に他殺が疑われる死亡事件等があったことは
瑕疵であり、売買に際しその事実を告げなかった売主に告知義務違反があるとして、買主の
契約解除及び契約約定の違約金請求が認められた事例

当事者・契約状況
売主:一般  買主:不動産業者  売買物件:マンション一室 購入目的:転売
売買金額:2800万円  売買契約約定の違約金:売買金額の10%

事案
売買の8年9か月前、当時所有者家族のうち2名が本件マンション内で他殺が疑われる態様
で死亡し、2名が近隣のマンションで飛び降り自殺をした事件があった。売主は本件売買の
約3年前、本件事件を知った上で前所有者より1120万円で取得した。売買後買主は本件事件
を知り、売主に対し契約解除等を申し入れた。これに対し売主は、本件事件は広く報道され
ており、知らなかったことは不動産取引のプロである買主に過失があるとしてこれを争った。

裁判所判示
① 売主は、本物件における売買の経緯等より、本件事件の存在が本物件の価格形成において
極めて重要な事実であることを認識していたと認められることから、信義則上本件事件を
告知する義務を負っていたと認められる。
② 買主は、本件マンション管理会社等への問い合わせによっても、本件事件を知ることはで
きなかったのであるから過失は認められない。
③ よって、買主請求の契約解除、契約約定の違約金の請求を認める。

心理的瑕疵に関する裁判例について

1年11か月前に建物内において睡眠薬自殺をはかり、約2週間後に病院で死亡した事件 平成21年6月26日 東京地裁


概要
売買の1年11か月前、建物内において睡眠薬自殺をはかり、約2週間後に病院で死亡した事件
は、極めて軽微な瑕疵であるとして、売主に対する損害賠償請求が一部認められた事例

当事者・契約状況
売主:不動産業者  買主:不動産業者(仲介業者介在) 売買物件:事業用賃貸物件・8
階建 購入目的:賃貸収益  売買金額:2億2000万円  売買時点賃料: 133万4千円/月

事案
売買の1年11か月前、元所有者の家族が睡眠薬を多量に飲んで病院に搬送され、その約2週
間後に亡くなる事件があった。売主及び仲介業者はその事実を知らなかったが、買主は売買
後近隣住民よりその事件を知った。買主は本件建物で自殺があったことは瑕疵であるとして、
売主に対し4400万円の損害賠償を請求した。なお、買主が購入した時点では本件建物全階に
賃借人がおり、事件があったとされる時点より2年4か月以上賃借人に変化はなかった。

裁判所判示
① 睡眠薬を多量に服用して病院に搬送され死亡した場合は自殺を試みたものと考えられ、本
件建物で自殺があったという事実は瑕疵に該当する。
② その瑕疵は、睡眠薬の服用によるもので、本物件内で直接死亡したものではなく、その事
件から1年11か月が経過していることから極めて軽微なものである。
③ 本件事件は限られたものだけが知っていた事実であり、売主・仲介業者に調査説明義務が
あったとは認められない。
④ よって、買主の売主に対する請求につき、売買金額の1%相当である220万円を認める。

心理的瑕疵に関する裁判例について

土地についての告知義務

土地や建物における心理的瑕疵の告知義務について、賃貸契約における告知は一般的に3年間が基準とされています。一方で、売買契約においては、特定の告知義務事項が法的に定められているわけではありません。

ここで、過去に存在した不動産で重大な事故が発生したものの、現時点でその建物が存在しない場合の、土地および事件後に新たに建てた建物の売買の場合告知義務について、公式なガイダンスは具体的な規定を設けていないものの、過去の裁判例を基に考えると、次のような指針があることが読み取れます。

  • 特に残虐性の高い殺人事件や、広範囲にメディアで報じられた事件に関しては、告知を怠った場合、告知義務違反の可能性が高まります。
  • 自殺を含む過去の事故については、その瑕疵が認められるものの、その事故の凄惨さによって、損害賠償が認められるかどうかが判断されます。

過去にあった建物で起きた8年前の殺人事件について土地の取引について 平成18年12月19日 大阪高裁

概要
土地上に過去存在した建物で起きた殺人事件が、8年以上経過したとしても土地の瑕疵にあ
たるとされた事例

当事者・契約状況
売主:不動産賃貸業者  買主:不動産販売業者
売買物件:更地160.27㎡(土地1:59.50㎡ 土地2:100.77㎡)・大阪府大阪市西成区
購入目的:建売2棟分譲  売買金額:1503万円余

事案
売主は、8年7か月前に殺人事件があり、その後更地となった本件土地1と隣接する土地2
を合わせて1503万円余で買主に売却した。買主は、本物件の分譲において、購入検討者が本
件事件につき近隣住民より知り購入を見送ったことから本件事件を知った。買主は、本件事
件は隠れたる瑕疵にあたるとして、751万円余の損害賠償を売主に請求した。

裁判所判示
① 本件事件のあった建物は取り壊され、嫌悪すべき心理的欠陥の対象は特定できないものに
なっているものの、本件殺人事件は自殺等に比べ残虐性が大きく、8年以上が経過したと
はいえ近隣住民の指摘により本物件の購入を取り止めた者がいたこと等の事情に照らせ
ば、本物件に嫌悪すべき心理的欠陥はなお存在していると認められる。
② 本件売買は本件土地1と本件土地2の一括した売買であり、本件土地の面積も比較的狭い
ものであるから、本件土地は一体として瑕疵を帯びる。
③ 事件は8年以上前に発生したものであり、事件があった建物は既に取り壊され、心理的瑕
疵は相当風化しているといえることから、買主の損害額は売買代金の5%相当の75万円余
と認められる。

心理的瑕疵に関する裁判例について

農村部における凄惨な殺人事件は50年経っても告知義務があるとした事案 平成12年8月31日 東京地裁八王子支部

概要
農山村地帯における凄惨な殺人事件は、約50年を経たとしても説明すべき瑕疵にあたるとさ
れた事例

当事者・契約状況
売主:不動産業者 買主:一般 (仲介業者介在)
売買物件:更地・農山村地帯 購入目的:居住

事案
約50年前に本物件上の建物で凄惨な殺人事件が発生、その後建物は取り壊され40数年にわたり
放置されていた。その事実を売主及び仲介業者は知っていたが、買主には告知しなかった。本
件事件を知った買主は、説明義務違反を理由として売主・仲介業者に対し損害賠償を請求した。

裁判所判示
① 農山村地帯における本件事件は、約50年経過したとしても近隣住民の記憶に残っていると
考えられ、居住し近隣住民と付き合いを続けていくことを思えば、通常保有すべき性質を
欠いており瑕疵である。
② 売主らには当該瑕疵を告げなかった説明義務違反があることから、買主の請求につき、売
主に対しては信頼利益の損害として売買代金を、仲介業者に対しては仲介報酬等を認める。

心理的瑕疵に関する裁判例について

8年7か月前に焼身自殺があった分譲地の取引について 平成19年7月5日 東京地裁

概要
分譲目的で購入した土地において、地中埋蔵物及び8年7か月前に焼身自殺があった瑕疵が
あるとして、買主が売主に損害賠償を請求した事案において、埋設物の撤去費用の一部を認
め、本件事件による瑕疵は認めなかった事例

当事者・契約状況
売主:一般  買主:宅建業者  売買物件:更地(駐車場)・埼玉県草加市
買主目的:戸建住宅建売分譲  売買金額:1億1469万円余

事案
売買より8年7か月前、本物件上の共同住宅一室で焼身自殺があり、以後建物は取り壊わさ
れ駐車場として使用されていた。本件売買後、買主は地中に産業廃棄物が埋設されていたこ
と、本件事件があったことは瑕疵であるとして、売主に対し1918万円余の損害賠償を請求し
た。これに対し売主は、本件事故については、売買契約時において買主担当者に説明してい
たと主張した。

裁判所判示
① 地中埋設物が存在した瑕疵については、買主にその撤去が必要であったことから、請求の
うち700万円をその損害として認める。
② 買主の分譲価格は本件自殺を考慮されたものではなく、また完売されていること、本件自
殺より8年以上が経過し、事件があった共同住宅は解体されその痕跡が一切残っていない
ことを総合すれば、本件土地の瑕疵とは認められない。

心理的瑕疵に関する裁判例について

既存建物の取り壊しを目的とする売買契約において、建物内で過去に自殺があった事例 平成11年2月18日 大阪地裁

概要
既存建物の取り壊しを目的とする売買契約において、建物内で売主親族の縊首自殺があった
ことは隠れた瑕疵に該当しないとされた事例

当事者・契約状況
売主:個人  買主:不動産業者  売買物件:土地建物
購入目的:買主にて建物取壊し後建売住宅販売  売買金額:1600万円余

事案
本件売買の約2年前に売主家族の縊首自殺があった。買主は建物解体後に本件事件を知り、売
主に対し契約解除と損害賠償として、手付金の倍額と建物解体費用の合計410万円等を請求した。

裁判所判示
建物内で自殺があった事実は瑕疵に該当すると考えられるが、嫌悪すべき心理的欠陥の対象は具
体的な建物の中の一部の空間という特定を離れて、もはや特定できないものに変容していること、
通常一般人が本件土地上に新たに建築された建物を居住の用に適さないと感じることが合理的で
あると判断される程度には至っていないこと等から、本件事件は隠れた瑕疵に該当しない。

心理的瑕疵に関する裁判例について

売買時点では取り壊されていた建物内において7年前に縊首自殺があった事例 昭和37年6月21日 大阪高裁

概要
売買時点では取り壊されていた建物内において、約7年前に縊首自殺があったことは瑕疵に
当たらないとされた事例

当事者・契約状況
売主:法人  買主:個人  売買物件:専ら住宅
購入目的:居住  売買金額:105万円

事案
売買より約7年前、本件土地上に建てられていた座敷蔵内で縊首自殺事件があった。売主は
その事件を知ったうえで購入し、売買の約1年前にこれを取り壊して物置を設置していた。
買主は売主に対し、本件事件は瑕疵であるとして損害賠償を請求した。(本件売買の約半年後、
買主は本件事件を告知したうえで第三者に85万円で売却した。)

裁判所判示
本件事件は本件売買の約7年前のことであり、事件のあった蔵は既に取り除かれて存在して
おらず、また本件事件を意に介しない買受希望者が従前から多数あったことも窺われること
から、本件事件は瑕疵とは認められない。

心理的瑕疵に関する裁判例について

まとめ

本ブログの要旨を簡潔にまとめると下記の通りです。

  • 自然死であれば告知義務はない
  • 自殺、殺人、火災による死亡などであっても、概ね3年が経過している賃貸であれば告知義務はない(ただし事件性やニュース性の著しいものについては告知が必要。また借主から質問を受けたならば答える必要がある)
  • 不動産屋の事件に対する調査義務は、事故の痕跡が全くない場合にまで必要となるわけではない
  • 殺人など重要犯罪のあった建物や、その事件の跡地にできた建物については、告知義務は半永久に残る
  • 告知義務は残るものの、損賠賠償の金額については、その事故の痕跡などを考慮して金額が決定される

当社は、事故物件の買取及び仲介サービスを提供しています。事故物件に関するお悩みがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。共に最良の解決策を模索いたします。

泉俊佑

Sity,Inc.代表の泉俊佑です。同社は空き家や事故物件などの売れにくい不動産の買取再販を行う不動産業者です。同社が運営しているサービスサイトである「瑕疵プロパティ買取ドットコム(瑕疵プロ)」の運営者も務めています。宅地建物取引士。

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