賃貸経営において、家賃滞納は避けては通れない課題の一つです。特に個人で賃貸経営を行う大家にとって、入居者募集から家賃回収、滞納時の対応まで、すべてを自分で行うのは大きな負担となります。
本記事では、家賃滞納が発生した場合の対処法、そして未然に防ぐためのリスク分散策について解説します。
家賃滞納者を強制的に追い出すことはできない
たとえ正当な権利があっても、法的手続きを経ずに自分の力で実現しようとすることは「自力救済」と呼ばれ、法律で禁止されています。
例えば、
- 借金の取り立て: 勝手に相手の財産を処分することはできません。
- 賃貸借契約の解除: 家賃滞納があっても、裁判所の判断なしに賃借人を強制的に退去させることはできません。
具体的な違法行為の例
- 無断で物件に立ち入る
- 賃借人を無理やり退去させる、鍵を交換する
- 賃借人の財産を勝手に処分する
これらの行為は、刑事罰や高額な損害賠償の対象となる可能性があります。
嫌がらせも違法行為となる
自力救済とまではいかなくても、嫌がらせ行為も違法となる場合があります。
- 滞納の事実を公表する
- インターネット上で賃借人を誹謗中傷する
このような行為は、名誉毀損罪やプライバシー侵害に該当し、法的責任を問われる可能性があります。
家賃滞納から強制退去までの流れと注意点
家賃滞納は大家にとって大きな負担となります。しかし、感情的な行動は避け、法的手続きを踏むことが重要です。
強制退去の条件
強制退去には、以下の2つの条件が必要です。
- 家賃滞納の事実: 滞納額や期間はケースバイケースですが、一般的には2~3か月以上の滞納が目安となります。
- 信頼関係の破壊: 滞納を繰り返したり、連絡を無視したりするなど、大家との信頼関係が著しく損なわれていると判断される必要があります。
強制退去までの流れ
- 催促と通知: まずは、口頭や書面で支払いを催促します。それでも支払われない場合は、内容証明郵便で支払いを求め、支払いがなければ契約を解除する旨を通知します。
- 明け渡し請求訴訟: 契約解除後も退去しない場合は、裁判所に建物の明け渡しを求める訴訟を起こします。裁判では、滞納の事実や信頼関係の破壊を証明する必要があります。
- 強制執行: 裁判で勝訴しても退去しない場合は、裁判所の執行官が強制的に退去させます。
注意点
- 自力救済は厳禁: 鍵の交換や家財の処分など、法的手続きを経ずに賃借人を退去させる行為は違法です。
- 内容証明郵便は有効な証拠: 内容証明郵便は、裁判で有効な証拠となります。弁護士に依頼して作成することも可能です。
- 弁護士への依頼を検討: 法的手続きは複雑なため、弁護士に依頼することでスムーズに進めることができます。
弁護士費用
未収家賃の回収や明け渡し請求訴訟などの手続きにかかる弁護士費用は、事案の複雑さや回収金額によって異なりますが、一般的には50万円以上を見込んでおく必要があります。
弁護士費用は、主に以下の項目から構成されます。
- 着手金: 依頼時に支払う費用で、事案の難易度や予想される作業量に応じて決まります。
- 報酬金: 事件解決後に支払う費用で、回収できた金額に応じて割合が決まる成功報酬制が一般的です。
- 実費: 訴訟費用、郵送費、交通費などの実際に発生した費用です。
着手金については、一部を前払いし、残りを事件解決後に支払う分割払いが可能な場合もあります。弁護士に相談する際は、費用の内訳や支払い方法について事前に確認するようにしましょう。
弁護士費用は決して安くはありませんが、専門的な知識と経験を持つ弁護士に依頼することで、早期解決や未収家賃の確実な回収につながる可能性が高まります。費用対効果を考慮し、弁護士への依頼を検討することをおすすめします。
強制執行:家賃滞納者の退去を強制的に実現する最終手段
明け渡し請求訴訟で勝訴判決を得ても、滞納者が自主的に退去しない場合、裁判所の力を借りて強制的に退去させる「強制執行」という手続きがあります。ここでは、強制執行の具体的な流れと、その際に発生する費用について詳しく解説します。
1. 強制執行の申し立て
明け渡し請求訴訟の判決確定後、以下の書類を管轄の地方裁判所に提出して強制執行を申し立てます。
- 債務名義: 確定判決正本のことです。
- 執行文: 判決文に「強制執行できる」という文言を追加したものです。
- 送達証明書: 判決文が滞納者に確実に送達されたことを証明する書類です。
2. 執行官による催告
強制執行の申し立てが受理されると、裁判所から執行官が選任されます。執行官は、滞納者の住居を訪問し、以下の内容を記載した「催告書」を交付します。
- 明け渡し期限: 通常、催告日から1か月後
- 強制執行日: 明け渡し期限が過ぎても退去しない場合に、強制執行を行う日時
3. 強制執行の実施(断行)
催告後も滞納者が退去しない場合、執行官は強制執行を行います。
- 立ち合い: 執行官、鍵業者、引越し業者などが立ち会います。大家も立ち会うことができます。
- 室内確認: 執行官が室内の状況を確認し、残置物の有無などを記録します。
- 荷物の搬出: 滞納者の荷物は、執行官の指示の下、引越し業者によって運び出されます。
- 鍵の交換: 最後に、鍵業者が鍵を交換し、強制執行が完了します。
強制執行にかかる費用
強制執行には、以下の費用がかかります。これらは前述の裁判費用とは別途発生します。
- 執行官への予納金: 2万5000円~(人数や物件数に応じて追加)
- 解錠費用: 約2万円~(鍵の種類や状況によって変動)
- 運搬費用: 1Rで約10万円~、家族の場合は30~50万円~(荷物の量や距離によって変動)
- 保管費用: 滞納者の荷物を保管する場合、別途費用が発生します。
- 処分費用: 滞納者が荷物を引き取らない場合、処分費用が発生します。
強制執行の注意点
- 強制執行は最終手段: 強制執行は、滞納者にとって大きな精神的負担を伴うため、可能な限り話し合いによる解決を目指しましょう。
- 弁護士への相談: 強制執行は法律に基づいた手続きが必要です。弁護士に相談することで、スムーズに進めることができます。
強制執行は、家賃滞納問題を解決するための最終手段です。専門家のサポートを受けながら、慎重に進めるようにしましょう。
家賃滞納を未然に防ぐ!大家ができる対策とは
家賃滞納が発生すると、大家にとって大きな負担となります。滞納後の対応も重要ですが、そもそも滞納者を出さないための事前対策が大切です。家賃滞納を未然に防ぐための具体的な方法をご紹介します。
1. 入居審査を徹底する
契約前の入居審査は、滞納リスクを低減するための最初のステップです。
- 属性情報の確認: 年齢、職業、勤務先、年収など、家賃支払能力を判断するための情報を収集します。
- 人柄の把握: 収入だけでなく、過去の賃貸履歴や支払い状況、近隣トラブルの有無なども確認し、総合的に判断しましょう。
- 保証人の確認: 連帯保証人がいる場合は、その属性情報も確認し、保証能力を評価します。
2. 家賃保証会社または連帯保証人を利用する
家賃滞納時のリスクを軽減するために、家賃保証会社または連帯保証人を利用しましょう。
- 家賃保証会社: 滞納時に家賃を立て替えてくれるため、大家の負担を軽減できます。
- 連帯保証人: 親族や知人など、信頼できる人物を連帯保証人として立てることで、滞納時の支払いを確保できます。
3. 支払い方法を工夫する
家賃の支払い方法を工夫することで、滞納リスクを低減できます。
- 自動引き落とし: 銀行口座からの自動引き落としを設定することで、うっかり忘れによる滞納を防げます。
- クレジットカード払い: クレジットカード払いを導入することで、支払いの利便性を高め、滞納リスクを軽減できます。
家賃保証会社の活用と注意点
家賃保証会社の役割
家賃保証会社は、入居者が家賃を滞納した場合に、大家に代わって家賃を立て替えて支払うサービスを提供します。その後、家賃保証会社は滞納者に対して未払い分の家賃を請求します。
家賃保証会社のメリット
- 滞納リスクの軽減: 家賃保証会社が未払い家賃を立て替えるため、大家は安定した収入を確保できます。
- 入居者募集の促進: 保証会社付き物件は入居者にとって安心感があり、入居希望者を増やす効果が期待できます。
- 滞納者への対応を代行: 滞納が発生した場合、家賃保証会社が督促や法的措置などの対応を代行するため、大家の負担を軽減できます。
- 審査の厳格化: 家賃保証会社は独自の審査基準を設けており、入居者の信用力を厳格にチェックするため、滞納リスクの低い入居者を選別できます。
家賃保証会社の種類
家賃保証会社には、主に以下の2つのタイプがあります。
- 賃貸保証: 家賃の滞納のみを保証するタイプです。
- 総合保証: 家賃の滞納に加え、原状回復費用や訴訟費用なども保証するタイプです。
家賃保証会社を選ぶ際の注意点
- 保証範囲: 保証内容や保証限度額を比較し、物件に合った保証会社を選びましょう。
- 保証料: 保証料は家賃の50%~100%程度が一般的です。複数の会社を比較検討し、費用対効果の高い保証会社を選びましょう。
- 審査基準: 審査基準が厳しすぎる会社は、入居希望者の幅を狭める可能性があります。物件のターゲット層に合った審査基準の会社を選びましょう。
- サービス内容: 滞納時の対応や入居者サポートなど、サービス内容も比較検討しましょう。
家賃保証会社利用時の注意点
- 保証会社への依存: 家賃保証会社に頼りすぎることなく、入居審査や契約内容の確認など、大家自身も滞納防止に努めることが重要です。
- 保証会社の倒産リスク: 万が一、家賃保証会社が倒産した場合、保証が受けられなくなる可能性があります。信頼できる大手企業を選ぶようにしましょう。
まとめ:家賃滞納リスクを軽減し、安定した賃貸経営を
家賃回収は、賃貸経営において最も重要な業務の一つです。滞納が発生すると、大家は多大な時間と費用を費やすことになりかねません。このような事態を避けるためにも、家賃保証会社への加入を強くおすすめします。
家賃保証会社は、家賃滞納時の未払い分の立て替えだけでなく、滞納者への督促や、場合によっては強制退去の手続きまで代行してくれます。大家にとって大きな負担となるこれらの業務を任せられることは、大きなメリットと言えるでしょう。
また、家賃滞納に直面した際、感情的な行動は禁物です。たとえ状況が深刻でも、大家が自ら入居者を強制的に退去させるような行為は違法であり、さらなるトラブルを招く可能性があります。まずは、不動産管理会社や家賃保証会社に相談し、法的な手続きに則って問題解決を目指しましょう。
弊社では、不動産管理、仲介、売買など、賃貸経営に関する様々なサービスを提供しております。家賃滞納をはじめとする賃貸経営のお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。専門知識と経験豊富なスタッフが、お客様の状況に合わせた最適なソリューションをご提案いたします。
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