地主などの土地所有者が土地を貸し、その上に借主が建物を建てた場合、借主には借地権が発生します。借地権は建物の所有者が土地を利用する権利を保障しますが、一方で土地所有者の土地利用は大幅に制限されます。
では、土地所有者が自身の土地を自由に使うために、借地権者に土地の返還を求めることはできるのでしょうか?
本ブログでは、地主が借地権者から土地の返還を求める際の手続きや、その際に必要となる「正当事由」、そして支払いが求められる可能性のある立ち退き料について解説します。
そもそも借地権とは
借地権とは、他人の土地を借りて、その上に建物を建てる権利のことです。土地を借りる人は「借地権者」、土地を貸す人は「借地権設定者」または「底地人」と呼ばれます。借地権者は、土地の使用料として毎月「地代」を支払います。
借地権には、主に以下の2種類があります。
1. 借地借家法に基づく借地権
建物の所有を目的とする借地権で、一般的に「借地権」と呼ばれるものです。この借地権には、「土地の賃借権」と「地上権」の2種類があります。
2. 民法上の借地権
建物所有を目的としない土地の賃貸借です。月極駐車場や資材置き場などがこれに該当します。
本ブログにおいては、基本的には借地借家法における借地権をテーマとして取り扱います。
借地権の種類
借地権には、大きく分けて以下の2種類があります。
- 借地法(旧法): 1992年8月1日より前に契約された借地権に適用されます。借地人の権利が強く、地主にとって不利な側面がありました。
- 借地借家法: 1992年8月1日以降に契約された借地権に適用されます。借地借家法では、定期借地権など、新しい種類の借地権が設けられています。
借地法(旧法)
1992年8月1日より前に土地を借りている場合に適用されます。
- 契約期限: 契約期限は定められていますが、更新することで半永久的に借りることが可能です。
- 存続期間: 建物の構造によって異なり、木造の場合は30年(最低20年)、鉄骨造・鉄筋コンクリート造の場合は60年(最低30年)です。更新後の期間は、木造は20年、鉄骨造・鉄筋コンクリート造は30年です。
借地借家法(新)
1992年8月1日以降に借り始めた場合に適用されます。借地借家法には、以下の5種類の借地権があります。
- 普通借地権: 契約期限は定められていますが、更新することで半永久的に借りることが可能です。存続期間は建物の構造に関わらず、当初30年、合意の上での更新なら1回目は20年、以降は10年です。
- 定期借地権(一般定期借地権): 住宅用として土地を借りる場合の借地権です。契約期間は50年以上で、更新はなく、契約終了後は更地にして返還します。
- 事業用定期借地権: 店舗や商業施設など、事業用として土地を借りる場合の借地権です。契約期間は10年以上50年未満で、契約終了後は更地にして返還します。
- 建物譲渡特約付借地権: 契約終了時に、土地所有者が建物を買い取る特約が付いた借地権です。契約期間は30年以上です。
- 一時使用目的の借地権: 工事の仮設事務所やプレハブ倉庫など、一時的に土地を借りる場合の借地権です。
借地権の違いまとめ
区分 | 借地法(旧法) | 借地借家法 |
---|---|---|
適用開始時期 | 1992年8月1日以前 | 1992年8月1日以降 |
借地人の権利 | 強い | 弱い |
契約更新 | 原則自動更新 | 更新には合意が必要 |
存続期間 | 建物の構造による(木造:30年、鉄骨造・鉄筋コンクリート造:60年) | 一律30年(更新可能) |
更新後の存続期間 | 木造:20年、鉄骨造・鉄筋コンクリート造:30年 | 1回目:20年、2回目以降:10年 |
定期借地権 | なし | あり |
その他 | 地主にとって不利な側面が多い | 定期借地権など、新しい種類の借地権が導入された |
借地権の特徴
借地権には、以下のような特徴があります。
- 土地の所有権は地主にある: 土地を借りて建物を建てても、土地そのものは地主のものです。
- 地代を支払う: 土地を借りる対価として、地主に地代を支払います。
- 無断で建物を売却できない: 地主の許可なく、借地に建てた建物を売却することはできません。
- 建て替えには地主への連絡が必要: 建物を建て替える場合は、事前に地主に連絡し、許可を得る必要があります。
- 契約期間満了時には更地にして返還: 契約期間が終了し、更新しない場合は、土地を更地にして地主に返還しなければなりません。
このように、借地権は所有権に比べて土地や建物に対する自由度が低いという特徴があります。
借地権の契約更新
借地権には契約期間がありますが、借地権者が希望すれば、定期借地権を除き、基本的には更新することも可能です。
- 旧借地法に基づく借地権: 地主に正当な理由がない限り、基本的に契約は自動更新されます。
- 借地借家法に基づく借地権 (普通借地権など): 契約の存続期間は法律で定められており、場合によっては半永久的に土地を借りることも可能です。
借地権付きの物件を購入する際は、借地権の種類によって契約更新の条件が異なるため、注意が必要です。
賃貸借契約期間満了時に行うこと
これまで借地権の種類や特徴を解説してきましたが、土地の借地契約終了時にはいくつかの法的なプロセスを経る必要があります。
- 借地人が土地の明渡を希望した
- 更新請求・使用継続の際に、直ちに地主が異議を申し立てて更新を拒絶する
- 地主が借地の使用に対して異議を申し立てなかった
借地人が土地の明渡を希望した
借地の契約期間が満了となり、借地人が契約の終了を希望する場合には、地主が建物を買取るか、もしくは更地にして土地を返却してもらうかのいずれかになります。
更地にして返却を行う場合には、その更地にするための費用負担は建物所有者(借地権者)が行うこととなります。
更新請求・使用継続の際に、直ちに地主が異議を申し立てて更新を拒絶する
地主が借地の返却を求める場合には、契約更新時にその契約更新について異議を申したてる必要があります。
法律上は、まず契約更新時に借地権者が更新を希望する場合に、「更新の請求」を行うこととなっています。この請求については、借地権者がいつ行う必要があるのか、明確な定めはありませんが、慣習的に契約終了の数ヶ月前に行うこととなっています。
借地権の更新を希望しない地主はこの更新の請求に対して異議申し立てを行う必要があります。これは更新拒絶と言われ、地主が借地権付きの土地の返却を受けるために必ず行う必要があるプロセスとなります。
仮にこれを行わない場合には、借地権は法定更新されてしまいます。
地主が借地の使用に対して異議を申し立てなかった
借地権者が「更新の請求」を行わなかった場合においても、契約期間の終了後もそのままその土地を使い続ける(その土地の上にある建物を所有し続ける場合)には、借地権の法定更新が認められています。そのため地主は借地の返却を希望する場合には、借地権者の更新の請求がないにしても、異議の申し立てを行う必要があります。
立ち退きを求める際の「正当事由」
地主が借地契約を終了し、借地人に立ち退きを求める場合、「正当事由」を証明する必要があります。正当事由とは、立ち退き要求が正当であると認められる理由のことです。
正当事由の判断は、以下の4つのポイントを総合的に考慮して行われます。
- 双方の必要性: 地主と借地人のそれぞれの事情や必要性を比較検討します。
- 借地契約の経緯: 契約締結から現在までの経緯、契約内容の遵守状況などを評価します。
- 土地の利用状況: 現在の土地の利用状況や、地主の将来的な土地利用計画などを考慮します。
- 財産上の給付意思: 地主が借地人に対して、立ち退き料などの財産上の補償を提示しているかどうかも判断材料となります。
ただし、立ち退き料の支払いだけでは正当事由として認められない場合があります。立ち退き料はあくまで補助的な要素であり、上記の4つのポイントと合わせて総合的に判断されます。
以下では、それぞれのポイントについて詳しく解説します。
双方の必要性
双方の必要性は、正当事由の中で最も重要な項目とされています。この基準においては、地主が「借地契約を終了して土地を必要とする理由」と、借地人が「借地契約の継続を望む理由」が比較されます。具体的な基準は明確に定められていないため、以下のような具体例を考慮に入れることが一般的です。
■ 地主側に有利に働く事情
- 地主自身や家族が居住のために土地に家を建てる必要がある場合。
- 地主の事業拡張のため、隣接する会社が事務所や工場の用地を必要としている場合。
- 借地権者が借地上の建物を自ら住まず、賃貸物件として利用している場合。
■ 借地人側に有利に働く事情
- 借地権者自身が借地上の建物に住んでおり、転居が困難である場合。
- 借地人が他に適切な住居を所有していない場合。
- 借地権者が健康的、経済的、家庭や職業上の理由で転居が難しい場合。
- 地主が他の土地や建物を多数所有しており、その借地を必要としない場合。
- 土地の明け渡しや更新拒絶の理由が、単に「所有権の土地として売却したいから」である場合。
- 地主が代物弁済などで偶然その借地を取得し、特に土地の使用が必須ではない場合。
これらの事情を詳細に検討し、地主と借地人の主張のどちらがより正当であるかを判断する必要があります。
借地契約の経緯
借地契約の経緯は、契約成立までの事情、契約内容、および契約に基づく取り決めの履行状況を指します。この背景が正当事由の判断において重要な要素となります。例えば、地主が借地権者の経済的困難を理由に土地を貸し出した事例は、地主の柔軟な対応を示しており、評価されることがあります。
■ 地主側に有利に働く事情
- 地主が借地人の窮状に同情して土地を貸し出した。
- 地代が同地域の類似地代に比べて安価である。
- 借地契約時に権利金が交換されなかった。
- 借地契約更新時に更新料が支払われていない。
- 借地人が過去に地代を滞納したことがある。
- 借地人が契約に違反し、用途違反(例: 住居用途で借りた土地を事業用途で使用)をした。
■ 借地人側に有利に働く事情
- 借地契約時に権利金を支払った。
- 地代を一度も滞納していない。
- いままで契約違反がない。
借地契約の経緯を詳細に考慮することで、どちらの主張がより正当であるかを判断します。契約遵守の状況が良好で特に問題がない場合、地主側の正当事由が認められにくいとされます。
土地の利用状況
土地の利用状況は、立ち退きに必要な正当事由を判断する際に重要な要素です。これには、現在の借地上の建物の使用状況や、建物の物理的状態、および近隣土地の利用様式との比較が含まれます。
■ 地主側に有利に働く事情
- 借地上の建物が商業活動に利用されているが、建築基準法違反や老朽化が進んでいる場合。
- 土地が低層建築で有効利用されていない場合、例えば近隣が高層ビルで活用されているにもかかわらず、借地が平屋建てである場合。
■ 借地人側に有利に働く事情
- 建物が主に住居用として使用されており、高層で敷地が有効利用されている場合。
- 建物が比較的新しく、耐用年数が十分に残っている場合。
地主が借地を回収したい場合、借地上の建物や土地の現状利用を基にして、近隣の土地利用状況と照らし合わせた上で、その変更が合理的であるかどうかを検討する必要があります。地主には、土地を明け渡し後に近隣の利用状況に合致した有効利用を計画する義務があります。ただし、具体的な計画がない場合は、建物の高さや利用形態が地主にとって有利に働くとは限りません。
財産上の給付意思
「財産上の給付意思」とは、地主が借地人の経済的損失を補償する意志の有無を指します。この給付には通常、立ち退き料や代替地の提供が含まれます。
■ 地主側に有利に働く事情
- 提示される立ち退き料が適正価格を超える場合。
- 代替地を提供し、引越しに伴う経済的損失を負担する場合。
■ 借地人側に有利に働く事情
- 立ち退き料が提示されていない場合。
- 提示される立ち退き料が適正価格と見なされない場合。
財産上の給付は立ち退きの正当事由の中で補助的な役割を持つ点に注意が必要です。高額な立ち退き料が支払われたとしても、それだけでは地主が契約の更新を拒否したり、借地契約を解除することは正当化されません。土地の使用に対する地主の必要性が判断の中心となります。
立退料の相場とは
立退料については明確な相場はなく、双方の事情や互いに置かれた状況や環境、不動産の状態など、総合的に勘案して決定されます。双方合意のもとで決定する必要がありますが、通常は弁護士などの専門家を交えて交渉することが多くなります。
具体的な相場について一律に決定できるものではないと先述しましたが、借地権の評価については一般的に相続税評価額として知られる借地権の評価額が参考となることがあります。
借地権価格の算出
借地権価格は、以下の計算式で求められます。
借地の評価額 × 借地権割合
借地の評価については、路線価または固定資産税評価額を用いて行われます。路線価については、国税庁のウェブサイトで公表されている「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認できます。
借地権割合についても路線価同様、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」に記載されています。
これらの計算による評価額は、立退料の参考となるだけではなく、借地権の売買時においても売買価格として利用されます。
立ち退き料の決定
立ち退き料は、上記で算出した借地権価格を参考に、様々な事情を考慮して決定されます。具体的には、以下の要素が考慮されることが多いです。
- 借地権の補償
- 転居費用および移転先の敷金・礼金
- 賃料差額の補償
- その他、借主が被る経済的損失に対する補償
また、立ち退きを要求される借主が個人か事業者かによっても、補償の内容は異なります。
- 個人: 引越し費用や精神的苦痛に対する慰謝料などが補償される場合があります。
- 事業者: 移転費用、営業補償、従業員の解雇に伴う補償などが支払われる場合があります。
将来的に土地の返却を希望するなら定期借地権
これまで解説してきたように、地主が借地権者から土地の返還を求めるには、契約更新時の異議申し立てと正当事由の証明が必要となります。このハードルは高く、たとえ立ち退き料を支払ったとしても、土地の返還を実現することは非常に困難です。
そのため、将来的に土地の返還を希望する場合は、定期借地権による契約が最も適しています。
定期借地権には、以下の3種類があります。
- 一般定期借地権: 主に住宅用として土地を貸し出す場合に利用されます。
- 事業用定期借地権: 店舗や事務所など、事業用として土地を貸し出す場合に利用されます。
- 建物譲渡特約付借地権: 契約期間満了時に、借地人が地主に建物を売却する特約が付いた借地権です。
定期借地権の種類と特徴
定期借地権は、契約期間の長さによって3種類に分けられます。
- 事業用定期借地権
- 契約期間: 10年~20年
- 用途: 事業用 (店舗、事務所など) に限定
- 特徴: 郊外型のビジネスなど、比較的短期間で土地活用したい場合に適しています。
- 建物譲渡特約付借地権
- 契約期間: 30年以上
- 特徴: 契約期間満了時に、地主が借地人から建物を買い取る特約が付きます。
- 注意点: 建物の価値が下がると、地主が買い取りを拒否する可能性もあります。
- 一般定期借地権
- 契約期間: 50年以上
- 用途: 住宅、店舗、事務所など、幅広い用途に利用可能
- 特徴: 契約期間が最も長く、自由度の高い土地活用が可能です。分譲住宅やマンションの建設などにも利用されています。
定期借地権のメリット
- 土地は必ず返ってくる: 契約期間満了後、土地は更地に戻り、地主の元に返還されます。
- 借入金なしで土地活用できる: 土地を購入する資金がなくても、土地活用が可能になります。
- 相続税対策に有利: 定期借地権は、相続税評価額が低くなるため、相続税対策に有効です。
- リスクが少なく収支が安定: 地代収入が安定しており、土地価格の変動リスクもありません。
- 売却せずに一時金(保証金)が入る: 契約時に保証金を受け取ることができます。
- 土地所有者は事業経営しなくてすむ: 土地を貸し出すだけで、事業経営の負担がありません。
- 相続税、固定資産税が軽減される: 定期借地権は、相続税や固定資産税の評価額が低くなるため、税負担が軽減されます。
定期借地権の種類比較表
区分 | 一般定期借地権 | 事業用定期借地権 | 建物譲渡特約付借地権 |
---|---|---|---|
契約期間 | 50年以上 | 10年~20年 | 30年以上 |
用途 | 住宅、店舗、事務所など | 事業用 (店舗、事務所など) | 住宅、店舗、事務所など |
更新 | なし | なし | なし |
契約満了時の処理 | 借地人は建物を収去し、更地にして返還 | 借地人は建物を収去し、更地にして返還 | 地主は借地人から建物を買い取る |
契約方式 | 公正証書など | 公正証書 | 法律上は格別の制限なし (実務上は仮登記) |
まとめ:借地権問題でお困りの地主様へ
今回の記事では、借地権者が土地を明け渡すように求めることの難しさについて解説しました。古い借地契約では、相続などによって契約状況が把握しづらくなっていたり、地代が長年据え置きで地主の権利が守られないケースも少なくありません。
また、借地権付きの土地に空き家が放置されたり、所有者が不明になるなど、問題が複雑化するケースも存在します。
このような借地権に関する問題でお困りの地主様は、ぜひ一度ご相談ください。当社は、弁護士と連携し、地主様の抱える問題解決を全力でサポートいたします。
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