使用貸借にて土地を知りあいに貸していた、建物をタダで住まわせていた。そういったケースはなくはないでしょう。
賃料をもらっている場合には、賃貸借契約が成立しますが、無償の場合には使用貸借と呼ばれます。
このような使用貸借において、貸主が借主との間の関係性に変化があり、借主に明渡して欲しい場合など、どのような方法で契約を終了できるのでしょうか。
本ブログでは明渡しの条件をいくつかの論点に整理して解説しています。
使用貸借契約と賃貸借契約、その違いとは?
「貸す」「借りる」という点では共通している使用貸借契約と賃貸借契約。その違いを分けるポイントは「賃料」です。
賃料を支払って借りるのが「賃貸借契約」
賃貸マンションやアパート、駐車場など、お金を払って借りるものが賃貸借契約にあたります。
無償で借りるのが「使用貸借契約」
例えば、友人に本を貸したり、親から車を借りたり。お金を介さずに借りるものが使用貸借契約です。
使用貸借契約は口約束でもOK?
賃貸借契約では契約書を交わすのが一般的ですが、使用貸借契約は当事者同士の信頼関係があれば口約束でも成立します。しかし、後々のトラブルを避けるためにも、書面に残しておくのがおすすめです。
使用貸借契約は借主保護が薄い!?
賃貸借契約では、借主を保護するための法律(民法や借地借家法など)がしっかりと整備されています。しかし、使用貸借契約にはそうした法律による保護がほとんどありません。無償で借りている分、貸主の都合で契約を解除される可能性も高くなります。
使用貸借契約はいつ終わるの? 終了のタイミングとは
使用貸借契約の終了時期は、いくつかのポイントで判断できます。
終了時期を決める3つのポイント
- 期間の定め:契約時に貸出期間を決めたかどうか
- 使用・収益の目的:何のために借りたか
- 誰が終了を主張するか:借主なのか、貸主なのか
ケース別に解説! 契約終了のタイミング
ケース1:期間を決めて借りた場合
貸出期間の満了とともに、契約は自動的に終了します。例えば、「3ヶ月間車を貸す」という契約なら、3ヶ月後に契約は終了です。
ケース2:使用・収益の目的を決めて借りた場合
- 目的を達成した場合:借りた目的を果たせば、契約は終了します。例えば、「引っ越しのためトラックを借りる」という契約なら、引っ越しが終われば契約終了です。
- 目的達成に必要な期間が過ぎた場合:貸主は契約を終了することができます。例えば、「試験勉強のため1年間部屋を貸す」という契約で、試験が終わってから半年経っても部屋を使っている場合、貸主は契約を終了できます。
ケース3:使用・収益の目的を決めていない場合
貸主はいつでも契約を終了できます。ただし、借主が契約を終了したい場合は、いつでも可能です。
借主が亡くなった場合はどうなる?
借主が亡くなった場合、使用貸借契約は自動的に終了します。
まとめると、使用貸借契約の終了時期は、契約内容や状況によって異なります。
- 期間を決めて借りた場合は、その期間が満了すれば終了
- 目的を決めて借りた場合は、目的達成または必要な期間経過で終了
- 目的を決めずに借りた場合は、貸主がいつでも終了可能
使用貸借契約の立退請求、どう対応する? 争う? それともお金で解決?
使用貸借契約で貸した物件から、相手に出て行ってほしい… そんな時、どのように立退きを求めればいいのでしょうか? また、立退きを求められた側は、どう対応すればいいのでしょうか?
立退きを求められた! どう対応する?
1. 契約終了の有無を争う
使用貸借契約が終了していなければ、立ち退く必要はありません。契約終了の理由は様々ですが、例えば、契約期間が満了していない、使用目的が達成されていない、などの場合は、契約が終了していないと主張できます。
契約が終了していないと主張するには、契約書の内容や、当事者間の関係性、物件の使用状況などを考慮し、総合的に判断する必要があります。
2. 立退料の支払いを交渉する
契約が終了している場合でも、立ち退く代わりに金銭を受け取るという解決方法もあります。これを「立退料」といいます。
立退料を受け取ることで、金銭的な補償を得られるだけでなく、人間関係のトラブルを避けたり、早期解決による精神的な負担を軽減したりできるメリットがあります。
立退料の金額は?
立退料の金額は、物件の価値や使用期間、当事者間の関係性などによって異なります。一般的に、借地権価格の3分の1程度が目安とされていますが、ケースバイケースで金額は変動します。
まとめ
使用貸借契約の立退請求は、双方の合意がなければスムーズに進まない場合があります。
- 立退きを求められた側は、契約終了の有無を争う、立退料の支払いを交渉する、などの対応が考えられます。
- 立退きを求める側は、契約内容や状況を整理し、相手に理解を求めることが大切です。
論点ごとの事例紹介
使用貸借の目的が論点となったケース
父親Aが弟Bに無償で土地を貸し、Bが妻Cと住んでいたが、Aが亡くなり、相続した子供が土地の返還を求める事例。(三井住友トラスト不動産 不動産売買のトラブルアドバイスより)
論点
- 使用貸借契約の成立と終了事由:
- AとBの間には、土地の使用貸借契約が成立していたと考えられる。
- 使用貸借契約は、期間満了、使用目的の達成、借主の死亡により終了する。
- 本件では、Bが死亡しても、Cが居住を続ける限り、契約の目的(土地上に家を建てて所有すること)が達成されていないと判断される可能性がある。
- 使用貸借契約の第三者対抗力:
- 使用貸借契約には第三者対抗力がないため、貸主が土地を売却した場合、借主は新しい所有者に対抗できない。
- ただし、特別な事情があれば、立ち退きが認められない場合や、立退料が必要となる場合もある。
結論
- Bが生存している間は、契約が継続しているため、土地の返還を求めることは難しい。
- Bが死亡した場合でも、Cが居住を続ける限り、契約の目的が達成されていないと判断され、土地の返還を求めることは難しい可能性がある。
- 土地を売却する場合、Cに立ち退きを求めることはできるが、Cの状況によっては、立ち退きが認められない場合や、立退料が必要となる場合もある。
土地の新たな所有者は使用貸借の利用者に明渡を求められるか
親族間で無償貸与されている土地を売却する場合の論点について整理します。(三井住友トラスト不動産 不動産売買の法律アドバイスより)
状況
- 親戚が無償で土地を借り、そこに家を建てて住んでいる。
- 土地の所有者は、親戚との関係悪化や土地の有効活用のため、土地を売却したいと考えている。
- 購入希望者は、土地購入後に建物を解体し、親戚に立ち退きを求める意向を示している。
論点
- 使用貸借契約と第三者対抗力:
- 無償で土地を貸す契約は「使用貸借契約」と呼ばれる。
- 使用貸借契約は、契約当事者間でのみ有効であり、第三者には効力が及ばない(第三者対抗力がない)。
- したがって、土地の所有者が土地を売却した場合、新しい所有者は、借主に対して土地の明け渡しを求めることができる。
- 権利の濫用:
- ただし、所有権の行使であっても、それが社会通念上著しく正義に反する場合、「権利の濫用」として認められないことがある。
- 裁判例では、高齢の借主が長年居住している場合など、立ち退きが借主に過大な負担を強いる場合には、所有者の明渡請求が権利の濫用と判断されることがある。
- 権利の濫用と判断された場合、所有者は、借主に対して立ち退き料を支払う必要がある場合もある。
権利の濫用とは?
権利の濫用とは、権利の行使が、社会通念上、著しく正義に反する場合、その権利行使を認めず、違法性を認める法理です。民法1条3項に「権利の濫用は、これを許さない」と規定されています。
今回の事例で、土地の購入者が親戚に対して行使する権利は、所有権に基づく土地の明け渡し請求権です。原則として、所有者は自分の土地を自由に使用・処分することができます。しかし、無償で土地を貸し、そこに家を建てて住んでいる親戚に対して、一方的に立ち退きを求めることは、必ずしも正当な権利行使とは限りません。
裁判所は、以下の要素を総合的に考慮して、権利の濫用にあたるかどうかを判断します。
- 当事者の関係: 親族間、友人など、当事者間の関係性や過去の経緯
- 土地の使用状況: 借主が長年居住している、生活の本拠としているなど
- 借主の状況: 高齢、病気、経済的に困窮しているなど
- 土地の売買価格: 適正価格か、不当に低い価格か
- 購入者の動機: 純粋に土地を利用するためか、借主を追い出す意図があるか
これらの要素を考慮した結果、立ち退きが借主に過大な負担を強いると判断された場合、購入者の請求は権利の濫用とみなされ、認められない可能性があります。
具体的には、
- 親戚が高齢で、他に住む場所がない場合
- 親戚が長年その土地に住んでおり、生活基盤となっている場合
- 土地が不当に安い価格で購入された場合
- 購入者が親戚を追い出す意図を持って土地を購入した場合
などは、権利の濫用と判断される可能性が高まります。
権利の濫用と判断された場合、購入者は親戚に対して、立ち退き料を支払わなければならないことがあります。立ち退き料の金額は、個々の事情によって異なりますが、借主が新たな住居を確保するための費用や、精神的苦痛に対する慰謝料などが考慮されます。
結論
- 原則として、土地の購入者は、無償で土地を借りている親戚に対して、建物の解体と立ち退きを求めることができる。
- ただし、親戚が高齢である、長年居住しているなどの事情がある場合、購入者の請求が「権利の濫用」と判断される可能性があり、立ち退き料の支払いを命じられることもある。
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